逃走

 兄と二人で、M先輩に招かれてお宅にお邪魔する。

 一戸建てで広いお庭があり、その隣にも相当大きな屋敷が建っている。
 先輩宅の庭と、隣家の庭との間に境界線みたいなものは引かれていない。塀もない。

 M先輩の叔父様の息子さん(一人っ子)に不幸があり、そのお家が養子を欲しがっているというので、先輩のところの次男はどうなんですかと言うと、ウチには息子は一人しかいないと返された。
 なんだかややこしそうなので、その話はしないことにした。

 しばらく庭にいて、隣家の玄関のチャイムが鳴り、数分の後、銃声がした。見上げると、隣家の二階で、あるグループがその家人達を人質にとって何かをしていた。

 こちらにも銃を向けている。

一階にも人が何人かいて、大きな窓からその姿が見えていた。
ただし、彼らは自分達の頭上で今何が起こっているのかということには気付いていないようだった。

兄が駅の方に向かって走り出した。

僕は、一階の家人達のことが気にはなったが、やはり走って兄の後を追った。

10分くらい田舎道を走ると、何処かの駅の駅前に着いた。

兄は何かに感染したらしく、ゲーゲー吐いていた。

 とにかく少しでも遠くに逃げる必要があった(と夢の中では確信していた)ため、コンビニの店員に「次の列車は何分か?タクシー乗り場はないのか?」とせきたてるように尋ねたが、キョトンとしていたのですぐに諦めて店の外に出た。

 流しているタクシーを拾おうとして、着た方向に少し引き返して、必死で探していると、ちょうど一台、向かい側から来た。
 もうすで別の客が乗っているようだったが、路肩に停まったので、その客は降りるのであろうと想像できた。
 ニ、三歩近付いたところ、60歳位の、人相の悪い婆さんが、車の窓を開けて後部座席から発砲してきた。

 逃げるとタクシーごと追い掛けて来た為、踏切から線路に入って、真っ暗闇の中を三嶋に向かって走った。

単線のはずだが、何故か沢山の箇所が交差していて(しかも右の車輪と左の車輪が交差するというありえない構造になっている)、新品の黒い鋼のようにそこだけが薄く光っていた。