葬式

誰か知らない知り合いの葬式に参列した。
キリスト教系の葬式だったと思う。
チャペルの前から二番目の、右端に座っている人(男か女か、年齢も定かではない)が、号泣している。その人の、左手首には黒い大粒のオニキスの数珠が、鈍く光っている。
なんだか自分も悲しくなってきて、背中を丸めて泣きはじめると、背中をつついてくる人がいた。振り返ると、中学時代の担任だった。生物の授業で山本宣治の性教育をトレースしていた、変り者のおっさんだ。
目が合うなり、「背筋を伸ばせ」と低い声で言ってきた。
こちらももう良い大人なので、つついてきた指をはたいて睨みつけたが、そのせいで悲しみは白けてしまった。
そもそも誰が死んだのか、いつどんな死に方をしたのかが全然わからないのに、何で悲しんでいたのか、とても不思議になった。
葬儀の後、四方の壁がコンクリート打ちっぱなしの部屋があり、それを通り抜けなければ外にでられないということが分かった。その部屋の中では人工的に雷を作りだしていて、天井から周期的にバチバチと雷が落ちていた。
難儀してその部屋からチャペルの屋外の階段のところまで出たが、通り抜けるときに、少し右手がビリっとした。

階段の上から3番目くらいの段のところに腰かけていると、親戚のA君と先輩のKさんが二人で揃ってこちらに話かけてきた(二人の面識は無い筈である)。
「校内で小規模な展覧会をやっているはずなのでチケットを入手してほしい。」とのことだった。
事務のおねーちゃんに携帯で電話をした。その携帯のプッシュボタンの代わりに、サボテンに数字が印字してあって、それを痛みをこらえて一つずつ押した。
押すたびにその数字のところが光った。
ほどなく電話がつながった。その事務のおねーちゃんから受話器越しにあれこれ聞き出そうとしたが、なかなかはなしがかみ合わないので、埒があかないからと言って、事務所からおねーちゃんが二人出てきた。二人ともそこそこブサイクだったが、人としては感じが良さそうだった。
わざわざ出てきてくれたので、「そこの事務所にいっこく堂が来てるよ。」と教えてあげた。
ブス二人はおそるおそる事務所のドアを開けた。
開いたドアの向こうに、いっこく堂と、人形ではなく、人形の代わりにおっさんが一人いた。
いっこく堂がしゃべり始めると、人形の代わりのおっさんが時差でしゃべりはじめた。「これは新しい!」と、その場にいた一同の喝采を浴びていた。