海の底

 私はプロジェクトの関係で那覇に在住している。
 京都の友人が、沖縄に来るというメールをくれた。

 3泊できるし、美ら海水族館には行ったことがあるというので、石垣島に行くことを提案した。

 滞在一日目は竹富島でグラスボートに乗ったが、二日目はシュノーケルをやろうということになり、業者に申し込んだ。

 簡単なトレーニングの後、碧玉の海へと向かう。

 初めて肉眼で見るサンゴの海底。
 聞こえるは水の音、わが呼吸のみ。

 美しい青緑と深い闇。その死のような底に向かって、危うく心ごと吸い込まれそうになってしまう。

 我に返って浅瀬に戻る。

 何度もそれを繰り返す。

 あれはいったいなんだったのか。

 日常に辟易したときに感じる、ネガティブな「死」への思いではない。

 それは、「その先に何があるのか?」、という漠然とした、それでいて積極的な、かなり危険な「死」への憧れではなかったか?

 ある地点を境に、潮の流れが沖へ沖へと向かう力を感じて、友の方へ引き返した。
 

 私には全く聞こえなかったのだが、声が嗄れるほど、何度も私の名を呼んでいたのだという。